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【あんのこと】実話?元ネタになった事件と映画のあらすじネタバレ!2020年6月の新聞記事とは?

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だれかとの出会いによって、一瞬で人生が変わることがあります。

ふれあう他人によって形成されていく、人間という不確かな生物は、良くなったり悪くなったりしながら生きていく。

人間らしさをなくした家族にもみくちゃにされ、人生を奪われた杏の「こと」を追った、モキュメンタリー的映画「あんのこと」を紹介します。

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この記事には映画の結末や重要なネタバレを含む可能性があります。未鑑賞の方はご注意ください。

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公開日2024/6/7
監督入江悠
原作なし
脚本入江悠
キャスト河合優実
佐藤二朗
稲垣吾郎
ほか
音楽安川午朗
上映時間1時間53分
配給キノフィルムズ
公式サイト「あんのこと」公式サイト
上映劇場「あんのこと」上映劇場
目次

【あんのこと】実話?元ネタになった事件,2020年6月の新聞記事とは(ネタバレ)

映画「あんのこと」は実話なのでしょうか?元ネタになった事件や、映画の舞台となった2020年6月に何が起こっていたのか?などについて調べたり、考察してみました。

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「あんのこと」は実話に着想を得た物語

2020年6月に、とある新聞の三面記事として小さく扱われた2つの記事が脚本のベースとなっています。

1つは、虐待の末、実母に売春を強いられ覚醒剤におぼれていた女性が、学校へ通い直し未来をつかもうとしていた矢先にコロナによって再起のチャンスを奪われたという実話。

もうひとつは、彼女の支援に一役買った刑事が別の事件で逮捕されたというものでした。

つちやです

映画本編となんら変わらない現実が、2020年に存在していたんです。

稲垣吾郎さんが演じた記者・桐野達樹も、実際の新聞記事を書いた記者をモデルとして誕生したキャラクターなのだそう。

極めて現実的なラインで描かれた本作がとんでもなく悲惨であることこそが、映画「あんのこと」の存在意義と感じました。

「あんのこと」元ネタになった事件や2020年6月の新聞記事とは…

あんのこと
(C)2023「あんのこと」製作委員会

公式、各媒体リリース記事ともに“2020年6月に新聞に掲載された「ある1人の少女の壮絶な人生を綴った記事」”という一文に終始していました。

30日間の新聞を読み漁れば該当記事に辿りつけるのでしょうが、映画で提示された杏の「こと」から少女を思うことが、最も健全かと思います。

つちやです

大事なことは全て映画の中にある

前述した2つの記事は、4年まえに消化されているものとして、掘り返さない方が上品かもしれません。

「あんのこと」監督が描きたかったものは?

本作は希望的メッセージをこめたり、ある種の救いを与えようとしていないところに映画としてのプライドがあると考えます。

かつ、「現実を見よ」と問題提起をしようとする説教的な雰囲気も感じません。

ただ起きた事象を、感情をともなわずひとつの物語に組み立て提示していたように思います。

つちやです

物語の種が、物事を正しく伝えようと在る新聞記事だったことも関係しているかも

登場人物の誰もが善悪に揺れ、自分の正義をつらぬくことに自信が持てずにいます。

コロナ禍では、ネット上で様々な争いが起こっていました。

そのほとんどが相容れない正義同士を戦わせるもので、不毛このうえなく、静観していても心が荒む感じがあったのも事実。

「あんのこと」で描かれる“不完全な”人間たちの失敗、選択ミス、後悔、そのすべての陰に、やさしさが見え隠れしていました。

つちやです

唯一“声の大きな人”として描かれる多々羅のキャラクターでさえ、やさしさを含んでいたのが印象的です。

入江監督は、本作を手にだれかを説教したいのではありません。

ただ「あったこと」を「こと」として再現する「こと」で、今日や明日起こる「こと」がほんの少しでも良い「こと」であれば。

入江監督の祈りは、平和をねがいつつも非力な私たち人類ほとんどの祈りと並列に、「映画」として産声をあげました。

もう大切な人を失わずにいられますように、と。

2020年、コロナ禍で大切な人を亡くしました。

すこしだけ注意を向ければその人の苦しみに気づけたかもしれないのに、自分のことばかりで精一杯でした。

時代の移り変わりがどんどん早くなり、多くのことを忘れていってしまうから、この映画を作って刻みつけておきたいと思いました。

旅立った人へ向けて映画を作るという行為が正しいのか今もわからないのですが、鎮魂の気持ちをこめて作りました。

ー入江悠監督コメント:映画『あんのこと』公式HP

「あんのこと」結末を考察

杏は左腕をきつくしばり、慣れた手つきで覚醒剤を注入し、その効き目を感じる間もなくベランダから飛び降りました。

上記の描写に、単なるスリップを超えた、杏自身による重大な決意を感じたのです。

死ぬことを決め、多々羅と桐野を、そして誰より自分を裏切る行為としての注入。

杏は、自分をしっかりと殺すためにまず、自分の信じたものと心を裏切るために覚醒剤を打ったのでしょう。

薬に“逃げた”のではなく、薬を“使った”ように見えました。

自分自身に裏切られた杏は、誰に傷つけられるよりも深く絶望し軽々と柵を超えます。

つちやです

希望を知ったあとの絶望は、マストで与えられ続けた絶望とは質の違う殺傷能力を持っていた

彼女が選択した結末は、彼女にとってのみ正解であればいいと私は思います。

つちやです

私は、ね

杏の死語に切り取られる多々羅と桐野、そして隣人・三隅紗良とその息子・はやと、それぞれの人生は、杏という存在の功績によって“少しだけ”揺さぶられます。

特に、三隅が杏に感謝してみせる様子が至極エゴイスティックで心に残りました。

“善悪”とはマーブル模様のように共存していて、善のような悪も、その逆もある複雑怪奇なものであると描いてくれた素晴らしいシーンだと思います。

つちやです

はやと、どうか幸せになってくれ

【あんのこと】ネタバレあらすじ

次に、ご紹介した結末に至るまで、「あんのこと」のあらすじをネタバレありでご紹介します。

起:多々羅との出会い

あんのこと
(C)2023「あんのこと」製作委員会

高齢の祖母・恵美子(広岡由里子)と母・春海(河井青葉)とゴミにまみれたアパートの一室で暮らす21歳の香川杏(河合優実)は、売春で生活費を稼ぐよう家族に強要されています。

母親に“ママ”と呼ばれ暴力のかぎりで支配されている杏には、自分の意志などありませんでした。 

言いつけ通りに売春を重ね、周囲に流されるがまま覚醒剤に頼るようになった杏が、ある日、ラブホテルで売春をしていたときのこと。

目前にいる裸の他人は、“キマった”末に急にひきつけを起こし倒れてしまいます。

逃げ遅れた杏は、ラブホテルでの一件で警察のお世話となりました。

杏は、警察署で多々羅保(佐藤二郎)という刑事と出会います。

多々羅は型にはまらず、杏の傷ついた心に真正面からズカズカと入りこむのです。

つちやです

多々羅の“近距離法”は意図的で、「だれかに助けてほしい」と願い続けてきたであろう杏のコアに速攻で潜りこみます

多々羅は警察署外で、サルベージ赤羽という、薬物依存者の更生を目的とした団体を率いていました。

多々羅に頼りがいを感じた杏は、素直にサルベージへと通い始めます。

承:3人の日々

サルベージには、年齢性別を問わない“仲間”が集います。

依存症患者たちを前に、多々羅は「1日1日を積み重ねろ」と力強く唱え続けました。

サルベージには度々、「多々羅さんにお世話になっている」という男・桐野達樹(稲垣吾郎)が顔を出しにきます。

場に不慣れな様子で委縮する杏に、桐野は声をかけました。

多々羅と杏、そして桐野は急速に距離を縮めます。

熱血漢といったふうの多々羅は、義務教育もまともに受けていなかった杏に教育の機会を与え、職を提供し社会とのつながりを作ってやりました。

つちやです

多々羅は態度がでかく粗暴なかわりに、傷ついた過去を感じさせる繊細さが特徴的。絶望的環境で傷つき続ける杏の痛みを、自分のもののように受け止め共に涙したり

まるで歳の離れた兄が2人も出来たというように、無邪気にはしゃぐ杏と、そんな杏を見て誇らしげな2人の男。

つちやです

与えられるべき愛情の一切を奪われてきた杏の、まるで親鳥にくっついて歩くヒナのような無防備さに、嫌な予感で心がゾワゾワしました

少しずつ文字を覚え、他人との関わり方を学びつつある杏は、多々羅と桐野の支えによって、ついに残酷なまでの悪環境である実家から脱出しシェルターに入ります

つちやです

走って逃げてきた杏を両手で抱き止め何度も何度も褒めてやる多々羅。ほしいものをくれる大人ってありがたい

転:多々羅の逮捕

あんのこと
(C)2023「あんのこと」製作委員会

介護施設で働きながら、他人とのふれあいの中で生きる喜びのようなものの端っこをつかんでいた杏。

ところがある日、施設がミスで、給与明細を母・春海の住む実家へと送ってしまったことから、春海が施設へ怒鳴り込んできます。

つちやです

っあぁぁぁぁあ!!!あぁぁぁぁぁぁぁああ!!なーにしてくれてんだよおおぉおおおおおぉ!!くやしい!もう嫌だ!

杏をつかみあげ暴れまわる春海を、杏に特別な愛情をもって接していた入居者・原康太(小林勝也)が車いすで突進し制止します。

つちやです

原爺が怒り心頭に「やめろおーーーーっ!!」と叫んだとき私は泣きました

施設長も続いて応戦し、ついに春海は「ばあさんが死んだらお前のせいだ」と捨て台詞を吐いて帰っていきます。

家の中で、自分とおなじように弱い立場で暮らす祖母・恵美子のことは杏も気がかりでしたが、せっかく他人の厚意を心で感じられている今の生活を手放すわけにいきません

「あなたと母親は別の人間。母親の問題はあなたのものではない」と、変わらず杏を受け止めてくれる施設の在り方に、涙を流しながら救われる杏。

つちやです

自分と親とがべつの人間であると教えてくれる他人の存在に出会えたとき、世界に色がついて人生というものを肌で実感できる。毒親育ちの“自分の育て直し”0歳からスタート!

つねに真っ青だった杏の顔は血色をとりもどし、笑みをたたえほころびます。

しかし、そんなある日、多々羅がサルベージに通っていた女性に性行を強制したとして逮捕されました。

逮捕のきっかけとなったのは、じつは週刊誌の記者であった桐野がスッパ抜いた、被害者の証言つきの暴露記事だったのです。

つちやです

3人で過ごした日々はなんだったのか。すべてのあたたかみは嘘でしかなかったのか。正義とか悪とかそんなことはどうだってよくて、なんか虚無い。嫌すぎる。

3人が引き裂かれたのは、コロナが全世界を支配しつつあるころでした。

結:ゆりもどし

コロナによる緊急事態宣言下で、杏の職場でも人員整理が始まりました。

非正規雇用されていた杏をふくむ数人が、職を失ったのです。

つちやです

コロナ禍でのリストラや「今日食うに困る」的ニュース、政府の対応に絶望し自殺した人のニュース、2020年からよく目にしていましたよね。家にしばりつけられて見せつけられた最低なニュース、忘れようにも体中に実感とともにこびりついています

多々羅と桐野を失い、職もなく孤独を感じていた杏の元に、ある日とつぜん隣人の三隅紗良(早見あかり)が訪ねてきました。

なんと三隅は、まだことばを話すに至らないほど幼い息子・はやとを杏に押し付け、走り去っていったのです。

つちやです

シェルターの隣人。事情はあれどやばすぎ女

杏は困惑を極めますが、置いてきぼりにされたはやとを放っておくわけにもいかず、食事を作ったり公園へ連れていったり、赤ちゃん用品を買ったりと手当たり次第お世話します。

つちやです

他人のベビーカーを盗むあたり杏っぽいですが、サバイブ子育てのたどたどしさに画面が華やぎました

次第に、はやとの世話をすることが生きがいになった杏。

しかしまたもや母・春海が現れ、はやと共々実家へと連れ戻しました。

つちやです

春海に「今すぐ粉々になって消え去ってくれ」と願いましたよ私は

春海はコロナ疑いのある恵美子と自分の生活のため、杏に「3人くらい客取ってこいよ」と命令し、杏は従うのです。

身体を売りまわり、へとへとで実家へ戻った杏は、はやとの不在にパニックを起こします。

児相が連れてった」とのたまう春海に杏はついに包丁を向けますが、恵美子が制止し場を収めました。

つちやです

やっちゃえば良かったよほんとに

はやとを失った杏はすべての希望を失い、自宅へ戻ると覚醒剤を打ちベランダから飛び降りました

…杏の死を知った多々羅は、「彼女は覚醒剤の作用によって死んだのでなく、積み上げてきたものを無に帰した自責の念で死んだのだ」と涙を流したのです。

つちやです

救いなんか無いのだよ。でもこれはあくまで映画だってこと、忘れないでください。現実はきっと救ってくれると私は信じています

【あんのこと】印象に残ったキャスト3選(ネタバレあり)

続いて、映画「あんのこと」で印象に残ったキャストを3名紹介します。

主人公・杏を演じた河合優実さんはもちろんですが、映画の中で意外と印象に残ったのはこの人物たちでした。

①香川杏役/河合優実さん

あんのこと
(C)2023「あんのこと」製作委員会

目の下にクマをたたえ、世界をにらみながら生きていた杏。

その反抗的なまなざしとは対照的に、不安を体現したような内股の立ち姿が印象的でした。

自分の存在を消したいとねがう杏の「こっち見んな」という気持ちが、スクリーンから痛いほど漏れていて、観ていることを申し訳なく感じるほど。

弱く細く、遥かにもろい杏だからこそ、河合さんはギュッとご自分の側へと抱き寄せながら演じていたように感じます。

他人とのかかわりのなかで、みるみるガードを外して自己開示をしていく杏の危なっかしいピュアさが絶妙でした。

つちやです

「令状持ってこいよぉ…」といきがっていた杏が、多々羅との出会いを直感的に受け入れる、序盤のカットに救われました

同時に、実母からのむごい仕打ちさえもノーガードで受け止めてしまう、やさしすぎる杏が、たった1人で傷つくさまを全身の硬直と脱力で表現していたのも印象に残っています。

内面と外側、両方の“芝居筋”がムキムキな河合優実さん、素晴らしかったです!

②香川恵美子役/広岡由里子さん

杏の祖母・恵美子の、無気力で無責任な佇まいがひどく印象に残っています。

娘・春海による、孫の杏への虐待を日常的に目撃しながら、そっと身を潜め事後にやっと杏に寄り添う雰囲気をみせる。

つちやです

ずるい女だなと冷ややかな目で見てました私は

虐待は多くの場合連鎖されますから、恵美子も体力のあるころはさぞかし春海をいじめたのだろうと邪推してしまいました。

そんな恵美子が杏をかばうのが、春海の癪に触るのではないでしょうか、きっと。

杏が春海に刃を向けたときの、恵美子の制止が最も腹立たしかったです。

つちやです

あくまで私個人の感想です!

恵美子を演じたのは、柄本明さんが主宰する劇団東京乾電池出身で、数多の映画・ドラマを脇でキュッとシメてきた広岡由里子さん

広岡さんの姿にも、河合さんとおなじく圧倒的な“筋力”を感じてありがたかったです。

消極的であることで気配を消しながら、悪者にはなりきれないという、恵美子の図々しい本性が垣間見えます。

素晴らしい存在感でした。

③原康太役/小林勝也さん

あんのこと
(C)2023「あんのこと」製作委員会

杏が働く介護施設で暮らすおじいさん・原康太の、ヤンチャだった過去を思わせるキュートな存在感が、本作における唯一の癒しでした!

つちやです

ねえちゃんもモンモン入ってんのかッ!(かわいい)

杏のおびただしい数のリスカ跡を本能的にプラスへと変換し、さばけた性格で杏の懐に潜りこむ、粋な爺・康太に、きっと杏も支えられていたと思います。

春海の細い体にも迷いなく車いすごと突進できる、まっすぐな杏への愛情に泣きました。

つちやです

杏が施設を去るときの康太が、赤ん坊のように杏にすがるさまにもウルウル。どうか長生きしていてほしい

小林勝也さんは、現在全国公開が続く映画「ロストサマー」で主人公を演じています。

読売演劇大賞優秀男優賞を、過去に3度も受賞している小林さんの縦横無尽な身のこなし、ぜひ様々な作品でお楽しみください。

【あんのこと】印象に残ったシーン・場面3選(ネタバレあり)

続いて、「あんのこと」で印象に残ったシーンを3つご紹介します。

①くちびる

登場人物たちに施された、生きざま滲むメイクが大変印象に残りました。

覚醒剤の使用でぼろぼろになった杏の顔面が、少しずつ色味を取り戻していくのを見てほっとしたものです。

一方、多々羅との別れを受け止めきれない杏が、自宅でひたすらに様々な誘惑に耐えているときには、くちびるが白くガサついていて。

髪の毛や爪、その細部にまでキャラクターの肉付けがなされていてうれしかったです。

本作のヘアメイクは、大宅理絵さんと金田順子さん。

おなじく緻密なスタイリングで物語に深みをプラスした田口慧さんのスタイリングと併せて、素晴らしかったです。

つちやです

杏が大事に使っているクマちゃんがついたペンも愛おしかったなぁ。美術の達人は塩川節子さん。シーンごとのセンスフルな飾りつけにも注目です

②場所に宿る意味

杏の実家、それからシェルターといった、住居の捉え方が印象に残りました

冒頭、杏が古くさびた階段をトストスと登ると、自宅の扉から股間を中心としたカメラワークで男性らしき人物が出てきます。

つちやです

社会の窓を閉める間もなく飛び出してきちゃうような、至極居心地の悪いプレイグラウンドが杏の実家。えぐすぎる

自宅が売春宿と化している映画として、本作同様に実話がベースとなっているロリ・ペティ監督「早熟のアイオワ」がありますが、似た公共性をもつ杏の家に寒気がしました。

つちやです

ロリ監督の実話をジェニファー・ローレンスがやりきった傑作。実は筆者がこの世で一番愛する作品です

地獄のマイホームへと続く長い階段に、祖母の恵美子がこもりきりになっている理由も見えました。

終盤、ベビーカーをかついで階段をのぼる杏の様子をみて「子どもと暮らすことが想定されていないアパートなのだな」と感じ、そこで育った杏に思いを馳せたりも。

シェルターに関しては、実家アパートより遥かに良い住環境に、やはり杏のこれまでを思うと苦しくなります。

「ベランダはあぶないよ」と窓ぎわで遊ぶはやとを制した杏が、自分自身で柵を越え逝ってしまったことも、常識的な生活を送れていただけに無念でなりません。

どの場所にも、たしかに杏が存在していたことを感じる、「場所」の切り取り方が秀逸でした。

③杏の笑顔

あんのこと
(C)2023「あんのこと」製作委員会

入口も出口も悲惨な物語でしたが、最も印象に残ったのは杏の笑顔です。

働いて他人の役に立ったとき、多々羅や桐野に受け入れられたと感じたとき、はやとが心を開いたとき、杏は照れた様子で下向きに笑いよろこびを表現していました。

つちやです

誰しも笑顔がいちばん素敵です

こんな風に美しく笑えるひとを、殴りとばし蹴りつけて売り捌く、腐り散らかした母親がいる、ゴミ以下の現実に憎悪がふくらみました。

前述しましたが、やはり杏という人物を明確に捉えた河合優実さんの在り方が鮮烈です。

【あんのこと】を実際に鑑賞した感想と評価(ネタバレあり)

あんのこと チケット
ストーリー展開
わかりにくい
わかりやすい
結末の評価
いまいち
衝撃的…
再鑑賞
1回でOK
何度も見たい

ストーリー展開

理解不能な環境下で暮らす杏の物語ですが、ストーリーは非常にわかりやすかったです。

社会から断絶されてきた杏にも正確に伝わるように、各シーンごと噛み砕いた説明をしてくれた多々羅と桐野のおかげで、観客であるこちらも全てを理解することができました。

虐待描写についても、虐待者の感情サイクル、非虐待者のトラウマ、共依存、“遺伝子に組み込まれてしまった”動物として親を思ってしまう気持ち、その全てが丁寧に描かれています。

つちやです

虐待キツい。全員逮捕で無期懲役にしてほしい。私は。

結末の評価

杏が選んだ結末はしんどいけれど、自分なりに納得しました。

物語として、“救いの死”というものが映画にはあると考えています。

脚本を書いた者には、創作世界をいかようにでも支配できる権利があるとも思うのです。

私にとって、杏が選んだ死は、杏の、すなわち入江監督自身の「行動」と思えました。

杏の選択を否定することは、杏を見守った2時間弱を否定することのようにも感じます。

つちやです

誰かへのあてつけとかで死んだのではないもん。よくやったよ杏

三隅親子の後ろ姿がエンドロールにつながっていましたが、杏のことなど翌日には忘れてしまいそうな三隅の感じにも、かなり納得しました。

安易なハッピーエンドにしない、「あんのこと」をただ綴っただけの作品は、芯が通っていたように感じます。

再鑑賞

つちやです

しんどい…逃げられるのが観客の権利ということで、さようなら、ありがとう杏

【あんのこと】ネタバレあらすじのまとめ

私は、この世の中にあるほとんどの不幸の成り立ちは、親からの虐待にあると考えています。

まっさらな子どものころに与えられた、または奪われた環境が子どもにとっては当たり前であり、目の前の人をひたすらに愛するしか方法がないのです。

映画「あんのこと」は、虐待が人に与える悪影響を真摯に描いてくれました。

映画館に来られない当事者を、どう癒すことができるのか、映画館で杏の「こと」を見つめながら考えてみてください。

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この記事を書いた人

つちやと申します。 映画をつくったりもしていますが、みて感想をいう以上のピュアな映画行動はないと思います。ホラー・オカルト・心霊・怪談・ラジオが心の友。すべての映画が100億点満点で、どんな映画も全部サイコーです。

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